本年度より始動した国際共同研究プロジェクト(ユダヤ-キリスト教的文脈の脱構築を試みる宗教性/スピリチュアリティの実証的研究-日本人の宗教性の実態解明および日本とトルコとの比較調査,比較実験(国際共同研究)-)」の第1回会合,下記日程で行われました。 日 程:2021年8月1日(日) 時 間:10:00~12:00 形 式:Zoomによるオンライン開催 当日は22名中18名が参加し,自己紹介,および今後の進め方についての意見交換がなされました。 このプロジェクトは,宗教心理学研究の要といえる「宗教性」概念の再定義という課題,また加えて,日本とトルコとの(宗教性にかかわる)比較研究という課題,を掲げています。 プロジェクトは,大きく3班「概念構成班」「心理学的調査班」「脳科学実験班」で構成され,各班でさらに専門領域が設定されています。 前回の科研費研究(基盤研究(B)「宗教性/スピリチュアリティと精神的健康の関連-苦難への対処に関する実証的研究-」→宗教心理学研究会Webサイト該当ページへ)と同様に今回も,参加メンバーの分野多様性が本プジェクトの特徴の一つに挙げられるでしょう。 「概念構成班」には,神道(神社本庁),仏教(曹洞宗,浄土真宗),キリスト教(カトリック,プロテスタント)の宗教家,また宗教学の専門の先生が入っておられます。 「心理学的調査班」には,心理学,発達心理学,アイデンティティ研究,老年学,精神医学,看護学,教育学,死生学,自殺予防学の専門の先生のほか,精神科医,臨床心理士,整体師として第一線でご活躍の方々がいらっしゃいます。 「脳科学実験班」には,神経科学,心理学,宗教学の先生が入っておられます。 構想では,これらの3班が適宜コミュニケーションをとりながら,主軸の研究テーマである「宗教性/スピリチュアリティ」概念の再構築に向け,それぞれの研究成果を持ち寄り,また,トルコの宗教文化との比較も行う,ということになっています。 初回の会合では,プロジェクトのとりまとめ役である松島公望先生(東京大学)より,1900年以降の国内で用いられてきた宗教性尺度・宗教観尺度(156論文を収集)の分析から新たな尺度開発へ,というベースとなる提案がなされ,そのうえで,主として今後の研究の進め方について意見交換がなされました。 そして今後,各自の研究関心,プロジェクトの進め方についてあらためて意見やアイデアを出し合い,それらを整理したうえで,次回の会合につなげることになりました。 いま宗教心理学の潮流は,「宗教性」だけに集中するというのではなく,「スピリチュアリティ」概念をも考慮に入れるようになってきています。「スピリチュアリティ」概念の普及(必ずしも統一されたイメージではないにせよ)により,研究上だけでなく実践上も,「宗教性」と「スピリチュアリティ」との区別や境界がゆるやかに(換言すれば曖昧に)なってきており,研究を進めるうえでも「宗教性」とは何か(また「スピリチュアリティ」とは何か)ということについて整理し,検討していく作業が,継続して必要になってきています。 その際,研究テーマとして掲げられているように,「ユダヤ―キリスト教的文脈の脱構築」ということを意識していくことになります。国内の心理尺度がほとんど欧米由来のものであることはよく知られていますが,歴史的,社会文化的な側面が色濃く反映される「宗教性」概念については,欧米の尺度の「直輸入」というわけにはいかないからです。 しかし他方で,「ではいったい,『これぞ日本の宗教性』というようなものが果たして存在するのか?」という視点も,同時に必要かと思われます。脱構築したからといって,すぐさま「日本産・日本由来」の概念に置き換わる,というわけでもありません。そのあたりの按配,ユニバーサルな側面と文化的な側面とをバランスよく配合していく,ということが,これからの(脱構築後の)「宗教性」概念に求められるのかなぁと思ったりします。 日本では「スピリチュアリティ」の語は,そのまま直截的であるよりはより実践的に,たとえば「スピリチュアルケア」という用法で,徐々に定着しつつあるように思います。(2020年度に日本スピリチュアルケア学会が任意団体から一般社団法人化されたことも,その流れの中にあるのでしょうか。)今後,学術分野でも「宗教性」の語より「スピリチュアリティ」の語のほうが優勢になっていくということも考えられます。その意味で,研究テーマに(前回の科研費研究に引き続き)「宗教性/スピリチュアリティ」とスラッシュで並置されている点は,重要であるように思います。 またこのプロジェクトで動きがありましたらお伝えしたいと思います。 (2021年08月2日記) 画像:神言修道会創立の地シュタイル(オランダ)の聖ミカエル修道院