「宗教と社会」学会第29回全国大会において,以下のテーマセッション(企画代表:松島公望[東京大学])が,zoomにて開催されました(2021年6月6日)。 本大会の要旨集がこちらの大会運営サイトより閲覧入手可能です(2021年6月17日閲覧)。 「宗教学と心理学の共同研究のための基礎構築および実施」の試み-宗教,スピリチュアリティを追究するための「新たな連携・協働」の提案- このテーマセッションは,本ブログでも紹介しております「国際共同研究プロジェクト」(「ユダヤ-キリスト教的文脈の脱構築を試みる宗教性/スピリチュアリティの実証的研究-日本人の宗教性の実態解明および日本とトルコとの比較調査,比較実験(国際共同研究)-」)の第1弾としての位置づけで行われ,まず,宗教学と心理学それぞれの立場をふまえた協働関係について議論がおこなわれました。 具体的には,以下のようなプログラムで進行しました。 (1)テーマセッション説明: 「『宗教学と心理学の共同研究のための基礎構築および実施』の試み-宗教,スピリチュアリティを追究するための『新たな連携・協働』の提案-」 松島公望(東京大学) (2)話題提供: 「実証的宗教研究の方法論をめぐる議論を提起する」 藤井修平(東京家政大学) (3)コメント①: 「心理学の立場から」 Masamami Takahashi(ノースイースタン・イリノイ大学) (4)コメント②: 「学術界における諸対立に関する一考」 ムスリン・イーリャ(立教大学) (5)フロア(zoom)を交えた討論: 藤井先生は,60分を使って,これまでの宗教心理学研究の流れ,CESR(cognitive and evolutionary science of religion)の研究動向,研究方法論上の問題提起,についてお話くださいました。CESRは,進化心理学の動向と共に,関連する書籍なども出ておりましたので何となく,そういう動きがあるんだな,ぐらいの認識でいましたが,ここまで議論が進んでいることを知らず,大変勉強になりました。(久しぶりに研究畑に戻ってきましたので浦島太郎状態です…。)藤井先生が訳出したものも出ているようですので一読してみようと思いました。下記文献: 國學院大學日本文化研究所(編)・井上順孝(責任編集)(2016).<日本文化>はどこにあるか 春秋社 の中の,スチュアート・E・ガスリー著「神仏はなぜ人のかたちをしているのか――擬人観の認知科学」を訳出されておられます。 Takahasi先生は,私の中では,とてもしっくりくる説明でした。アリストテレスにまで遡って,巨視的な視点で心理学を俯瞰しているところが,興味深かったです。心理学研究の系譜を,アリストテレスの4原因説(質量因・作用因・形相因・目的因)と結び付けて説明しておられました。 ムスリン先生は,宗教学の観点から,(実証的)宗教心理学が抱える問題を指摘されつつも,宗教学との協働は可能である,というお話をされました。宗教学と心理学とが,合同で研究対象について操作的定義(作業定義)で合意したら,まずは実証的研究(量的・質的研究)を進めていきましょう,そのプロセスの中でも,研究者自身のバイアスも意識しながら進めていきましょう,というご提案に賛同いたします。 松島先生はすでに名司会者の域に入っておられ,冒頭で参加者の笑いを取るなど,つかみはOKでした。みるみるうちに参加者の心をつかんだように思います。問題意識はとても高く,しかし同時に和やかに進行してくださいました。 (2021年06月09日記) 画像:アッシジの聖フランチェスコ聖堂